申し訳ない
食事時はテレビをつけている。僕はただなんとなくぼんやり眺めながら食事しているのだが、一緒に食事している母親は、映っているものに関して何かと話しかけてくる。
これどうなってんだろうねぇとかすごいねぇとかふーんとか。
僕はうん・うん、と相槌うつのみ。言葉を選んで対話する氣力が湧かないのだ。
だが、口から先に生まれたような氣質の母はとりあえず喋り続ける。
喋られるくらいなら苦にもならないが、質問や感想や意見を求められるような問いかけをされると重圧となる。返答の言葉を作り出すのが重労働だからだ。
頑張って返答しようものなら、更にもう一歩先に進んだ会話が続行されることとなり、重労働の作業が開始され継続となり、悲鳴を上げたくなる。
母をはじめ、僕に話しかける相手には申し訳ないと思っており辛い。皆さんに悪氣は無い事など百も承知だ。でも今の僕には激しい疲労となる作業となっている。
母は察して会話を止める。交際中の女性には説明したがまだピンとこない反応。
なるほど鬱病は家庭や人間関係を壊す病氣だと解った。
『貴方が嫌いじゃないんです。対話する氣力と体力が無くなる病氣なんです』
出会う人間たちに片っ端から説明してもいい。僕は人間関係を壊したくないのである。